就業規則をつくっても会社から労使トラブルがなくならない5つの理由

―「就業規則をつくれば問題は起こらない」は本当か?―

「就業規則を整備しているのに、なぜか職場のトラブルが減らない」

これは多くの社長さんから聞かれる悩みです。

残業代の問題、パワハラ、退職時の揉め事、メンタル不調、懲戒の運用ーー。
就業規則を整備したにもかかわらず、現場では次々と問題が起こる。そんな状況に頭を抱えている経営者も少なくありません。

たしかに就業規則は会社運営において非常に重要です。
社員数が10人以上の会社では作成義務もあり、労務管理の基本となるものです。

しかし、就業規則をつくったからといって労使トラブルがなくなるわけではありません。

就業規則を整備したことでかえって安心してしまい、本来向き合うべき問題が見えなくなるケースもあります。

本記事では、「就業規則をつくっても労使トラブルがなくならない理由」について、中小企業の現場で実際によく見られる課題を踏まえながら解説します。

目次

就業規則が現場で運用されていない

これが最も多いパターンです。

就業規則は作成しています。
しかし現実には、

・社員が内容を知らない
・管理職も読んでいない
・入社時に形式的に渡した、もしくは見せただけ
・運用が現場まかせ

という状態です。

これでは、就業規則が存在していても意味がありません。

たとえば、遅刻や欠勤のルールが書いてあっても、上司や部署によって対応が違えば社員は混乱します。
仮に同じ「遅刻」でも営業部では黙認され、製造管理部では厳しく注意されるとすれば、「会社としての正しい運用」が曖昧になります。

このような現状は、会社の知らぬうちに部署を越えて伝わり、次第に会社への不満につながっていきます。

また、育児休業規程やハラスメント防止規程があっても、管理職が内容と会社の意図を理解していなければ、あってないようなものです。


就業規則は、「法に基づいて作ること」以上に「職場で活用されていること」が重要です。

会社で運用できる、“生きたルール”になっているかどうかが問われます。

組織文化を軽視している

社長さんの中には、

「ルールを明確にすれば、社員は必ず守るはず」

と考える方もいます。

しかし実際には、ルールだけで人が動くわけではありません。

社員は、
・上司との関係性
・職場の空気感
・同僚や部下の行動
・社長・役員のメッセージ
・会社への帰属意識や納得度

などによって、同じルールの下でも行動が変わります。

たとえば、「無駄な残業は禁止」と規則に書いてあっても、上司が毎日遅くまで残っていれば、部下は帰りづらくなります。

また、「パワハラの懲戒規定」を定めていても、感情的な叱責が日常化していれば、現場の状況は変わりません。

社員の行動には、「規定内容」だけではなく「組織文化」も影響するということです。

ここを軽視すると、どれだけ完璧な就業規則を作っても、トラブルは起こり続けます。

管理職が就業規則を理解していない

労使トラブルの多くは、「管理職の仕事ぶり」がきっかけで起きています。

・感情的な指導
・不公平な対応
・曖昧な指示
・長時間労働の放置
・退職時の不用意な発言

こうした問題は、管理職の知識と認識不足から生まれるケースが少なくありません。

ところが中小企業では、管理職向けの労務管理教育を行っていない会社がたくさんあります。

その結果、

「昔は残業が当然だった」
「厳しい言葉で指導しないと人は育たない」
「男性の育児休業なんてあり得ない」

といったスタンスで部下と対峙する上司が出てしまい、トラブルに発展する場合があるのです。

就業規則は、単に会社に置いてあればよいものではありません。

特に管理職には、最新の労働・社会保険法令が反映された職場ルールを具体的に理解してもらう必要があります。

つまり、就業規則は管理職教育とセットで初めて機能するのです。

会社の実態と就業規則がズレている

意外と多いのが、「就業規則が会社の実態に合っていない」ケースです。

たとえば、

・規則上は完全週休二日制だが、実際は休日出勤が当たり前になっている
・残業は許可制になっているが、現場は勝手に残業している
・育児・介護休業規程はあるが、該当者がいても利用実績がない

こうした“就業規則と実態のズレ”は、時間の経過とともに社員の不信感につながります。

そして、このズレが大きくなるほど、労使トラブルのリスクは高まります。

なぜなら社員は、「会社は言っていることとやっていることが違う」と感じるからです。

また、中小企業では、古い就業規則のままで放置されている会社も珍しくありません。

働き方が変わり、テレワークや副業・兼業のあり方、SNS・生成AIの取扱い、メンタルヘルスケアなど新たな課題が増えているにもかかわらず、規則やルールが今の社会と乖離しています。

就業規則は一度つくれば終わりではなく、会社の実態や社会状況に合わせて見直さなければなりません。

トラブルが起きた時にしか使われていない

就業規則が「トラブル発生時の武器・保険」になっている会社があります。

つまり、

・問題社員への対応手順
・懲戒規定の適用
・退職トラブルが起きた時の取扱い

など、“トラブルが発生した時”に就業規則や規程類を使っているわけです。

しかし本来、就業規則を中心としたルールは、「トラブルが起こらない」ために活用されるべきものです。

たとえば、

・会社として大切にしている価値観は何か
・社員にどんな行動を期待しているのか
・社員が困った時は、誰にどうやって相談するのか

を日頃から共有することで、トラブルは防ぎやすくなります。

大切なのは、「会社の都合を社員に押しつける規則」ではなく、「あらゆる立場の社員が安心して働けるための規則」として機能しているかどうかです。

就業規則がトラブル処理の道具だけの会社では、社員との信頼関係が築きにくくなります。

逆に、日常的なコミュニケーションの中でルールが活用されている会社は、労使トラブルが起きにくい傾向があります。

まとめ:労使トラブルを防ぐのは「就業規則」だけではない

就業規則をつくっただけでは労使トラブルはなくなりません。

なぜなら、労使トラブルの多くは、
・コミュニケーション不足
・管理職の部下対応の傾向
・組織風土・文化
・信頼関係の欠如

といった、「人と組織」の問題から生まれるからです。

もちろん、就業規則は必要です。会社を守るためにも、社員に安心して働いてもらうためにも欠かせません。

しかし本当に重要なのは、規則が職場でどう機能しているかを把握することです。

・管理職が内容を正確に理解しているか
・社員に日頃から共有されているか
・職場の実態とズレはないか
・トラブルが起こらない目的で活用されているか

ここまで考えて初めて、就業規則は意味を持ちます。

中小企業では特に、「制度をつくって終わり」になりやすい傾向があります。
しかし、労使トラブルを減らすためには、制度と同時に“組織づくり”に目を向ける必要があります。

ルールや規則の作成にとどまらず、「社員が納得感を持って働ける会社」をどうつくるか。

そこに向き合うことが、結果として最も大きなトラブル予防につながるのではないでしょうか。

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